入院を通じて見えた「医療費と税制」の課題|医療費控除・所得保障・退院後支援を考える

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前回の投稿では、退院のご報告とともに、高額療養費制度のセーフティネットとしての心強さ、「退院できること」と「一人で生活できること」は同じではないという退院後の生活支援の課題、そして女性の健康と仕事・社会参加について記しました。

退院後、周囲に支えられながら、少しずつ日々の生活と仕事に戻りつつあります。

そして、入院や手術にかかった費用や手続きを確認していく中で、さらにもう一つ、「医療費と税制」をめぐる制度の課題に気づきました。

少しづつ仕事に復帰しています。
少しづつ仕事に復帰しています。

1.備えていた人ほど救われない「税制の逆転現象」

医療保険に入っていない場合、入院や手術で多額の出費があっても「医療費控除」によって確定申告で税負担が軽くなります。これは命や健康を守るための、大切なセーフティネットです。

一方で、毎月コツコツと保険料を払い、民間保険で自らリスクに備えていた場合はどうでしょうか。

いざ保険金を受け取ると、医療費控除を計算する際に、かかった医療費から給付金の全額を差し引かなければなりません。


医療保険に入っていなかった場合
「保険に入っていなかった人は、医療費控除で減税される」


自ら保険料を払い、備えていた場合
「自腹で保険料を払い続けて備えていた人は、給付金で相殺されて控除がゼロになる(減税なし)」

という、おかしな逆転現象が起きてしまいます。

しかも、多額の医療保険料を毎年払っても、控除によって実際に軽くなる税金は、多くの場合、年間わずか数千円程度です。

長年払ってきた保険料の負担とは到底釣り合わないのに、いざ病気になると税の救済から真っ先に外されてしまう。


国が「自助努力」を促しながら、コツコツ備えた人が損をする仕組みになっています。

2.多様な働き方 休めば収入が途絶える現実

さらに深刻なのが、就労形態による格差です。

かつての昭和型社会は、終身雇用の会社員世帯が主流でした。会社員など被用者保険に加入している人は、一定の条件を満たせば、病気で休んでも健康保険から「傷病手当金(給与のおおむね3分の2・非課税)」が通算1年6カ月まで支給されます。

しかし現代は、自営業やフリーランス、条件を満たさず国保で働く短時間勤務の方など、病気休業の手当が出ない働き手も大勢います。


病気になった瞬間、生活の物入りが増える一方で、収入が途絶える。

この過酷な二重苦を個人が背負わされます。

働き方がこれだけ多様化した今、病気になった時の所得保障だけが、かつての雇用モデルの違いによって大きく分かれていていいのか。

ここも検討すべき課題です。少なくとも、自ら備えてきた個人まで不利になることのないよう、控除の仕組みは見直すべきです。

3.医療費控除が切り捨てる「見えない出費」

入院を経験して強く実感したのは、病院窓口での支払い以外にかかる「物入り」の大きさです。

入院中の術衣・入院着、日用品や衛生用品の購入。

そして退院直後、手術後に重い荷物も持てない中で、当座の買い出し、配送サービス、遠方の親族に手伝いに来てもらったり……。

こうした、病気になったことで避けられず発生する出費の多くは、医療費控除では当然、拾われません。

医療費控除が創設されたのは昭和25年。

当時は「家にいる家族が世話をする」という家族像が、今よりはるかに一般的だった時代です。

しかし今の日本は、高齢化と単身化が進んでいます。頼れる家族が身近にいない「おひとり様」も大勢います。

病院を出たその日から、療養を維持するために必要な生活上の出費が発生する。

それなのに、税制が見るのは基本的に「医療として認められる費用」で、その周りにある生活上の負担の多くは自己負担のままです。

では、こうした費用を一つひとつ実費で医療費控除の対象にすればいいのか。

それでは、高額なサービスや華美な支出まで対象にするのか、という問題も出てきます。

だからこそ私は、入院日数などに応じて、誰にでも等しく一定額を控除する仕組みを設けることも検討すべきだと思います。

例えば「入院1日につき一定額」と決めれば、高いものを使った人ほど控除が増えることもありません。

豪華な入院生活を税金で支えるのではなく、


病気になったことで、誰にでも避けられず生じる生活上の負担の控除を、一定額までは社会として認める。

そういう考え方があってもいいのではないでしょうか。

経験を政策へ

高額療養費という公助のありがたさを実感したからこそ、その足元にある

  • 自ら備えた自助努力が裏目に出る税制の矛盾
  • 働き方の変化に追いついていない保険制度や所得保障の格差
  • 家族が支える前提のまま、単身者の生活実態を十分に拾えていない制度

という「制度の落とし穴」を強く痛感しました。

不安定な立場にあっても自力で備えようと努力している人が損をする税制では、国民は税を信用しなくなります。

今回の経験から、少なくとも次のような見直しは政策として考えていきたい。


● 医療費控除における民間保険給付金の相殺ルールの見直し

自助努力へのペナルティ解消

● 生命保険料控除の引き上げ
自ら備える人への税制支援の拡充

● 入院日数などに応じた一定額控除の創設
療養に伴い避けられず発生する生活上の負担への配慮

● 病気で働けなくなった時の所得保障の格差の是正
働き方によって「休める人」と「休めない人」が生まれない仕組みへ

● 単身世帯の退院直後を支える、地域での生活支援の仕組みづくり

病気や怪我は、誰の身にも突然訪れます。痛みを抱えながらも真面目に生きてきた人、自ら備えてきた人が報われ、誰もが安心して治療に専念できる社会へ。

今回の入院の気づきを、具体的な政策提言として形にしていきます。